強引男子にご用心!
聞ける人聞けない人



月日と言うものは、飛ぶように過ぎて行く。
こういうのを、光陰矢の如しとか言うのかしら。

学生の頃の現国とか古文って、興味のある部分しか真面目に授業は受けていなかったから、あまり自信はないけれど。


「先輩。すみません。旭川支社の営業車輌が事故ったらしいんですが。どう処理すればいいかって、問合せがきているんですけど」

「え。事故は人身?」

「あ。いえ、峠で鹿が飛び出してきたらしいです」


さすがだ北海道。

感心しながら千里さんを振り返り、虎の巻ファイルを手渡す。

「運転してた方、病院には行った?」

「あ。ありがとうございます。確認してみますねぇ」

そう言いながら、電話応対に戻った千里さんを眺める。

千里さんの口癖も直ってきたよね。

うん。
いいことだわ。

そんな事を考えていたら、


「……を見てください」

そう言いながら、山本さんがドアを開けた。


「………………」

また、彼は……ドアを開ける前に頼み事をしていたらしい。

「え。あれ? えーと」

「何を見ればよろしいのでしょうか」

「ああ! A会議室のエアコン、調子悪いみたいで、極寒なんですよ」

「エアコンですか?」

確かあれはリースだったよね。

朝にチェック入れた時は稼働していたんだけれどな。

毎日仕事は通常業務と、こんな飛び込み業務で大わらわ。


そして、お昼はお弁当持参で、水瀬の医務室に向かう。


「……だから、あんたたち。どうしてお昼に医務室に来るのよ」

多少、剣呑な視線の先には葛西さんがいるのにも慣れてきたり。

「水瀬さん、夕食にお誘いしても断られますし」

「私は葛西さんのお陰で、まだ時の人だから。はい。賄賂」

お弁当を渡すと、水瀬は諦めて肩を落とした。

「……葛西さん。紅茶しかないですが飲みますか?」

「はい。ありがとうございます」

水瀬がお茶をいれ始め、診察椅子は彼に譲ってベッドに座ってお弁当を広げていたら、葛西さんは不思議そうに首を傾げる。


「僕のせいで時の人……とは?」

「以前、葛西さんから話しかけられましたでしょう? そのお陰で、休憩室に行くと女子社員の話のネタにされてます」

「……それは」

人気者は大変ですね。

ネームバリューも、ルックスも揃っちゃう人は、女子社員の格好の的なんだろうけれど……

持続性が磯村さんの時の比じゃないと言うか。

婚活女子は案外多い。

実際は、社長の息子目当ての人と、葛西さんにちゃんと憧れている人が半々ってところかな。

表立ってどうこうされる……のは、たまにあるけど、言うほど酷くはない。

だけど、実に密かに、ひたむきに、コソコソと噂を囁かれるのにはうんざりすると言うか。


「すみません。迂闊でした。ただ、そんなに酷いですか?」

葛西さんは、仕事はできる人だけど、私生活が無頓着なのかな?

まぁ、ナルシストな男の人もどうかと思うし、それを鼻にかけてる自信過剰な人も嫌だけど。

すこ~し、自覚した方がいいと思う。
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