強引男子にご用心!
デェト




休日の暇は暇であって、実は暇じゃない。

それに“起きたら連絡する”と言われていたから、いつも通りの時間に起きてしまっていたり。

遠足待ちわびてる子供の気持ちが、少しだけ解ったけれど……


『起きてたか?』


ラインで連絡がきて、目を細めた。


「起きてました。これからお昼ご飯を作って食べるつもりでした」

朝からベッドメイクして、洗濯物を仕分けて洗濯機をまわしたわ。

部屋に掃除機もかけて、乾燥機から出したものまでたたんで、然るべき場所にしまいもした。


『休みなのに元気だな』

「もう11時ですから」

『おー……どこ行くか決めたか?』

「……休日はどこも混んでるし」

『何を出不精の男みたいな言い訳してんだよ』

「……だって」

『出掛けるから。デートぽい格好して来いよ』


ええ?


「デートぽい格好?」

『行先、動物園にするか』


動物園。

え、動物園?


「む、難しい……かなぁ?」

『無理とは言わねぇのか』


言いたいけどね。

磯村さんは意地悪だ。


『まぁ、30分で出て来い』

「え?」

『出来るだけ暖かい格好でな?』


暖かい格好で、デートっぽい格好?

解らないけど、とりあえず暖かい格好……

あれこれ試行錯誤して何となく暖かい感じで部屋を出ると、磯村さんが鍵をかけているところに出くわした。


「おー……」


何ですかね。


「随分、可愛いな」


ニヤッとされて、ドアに手をかける。


「着替えてきま……」

「いや。時間ねぇよ」


がっちりドアを押さえられて苦笑された。


だって、磯村さんの格好は黒のシングルボタンのピーコートに黒の細身のパンツ。
インナーはボルドーのセーターに、ちらっと見えるシャツは白のボタンダウン。

足元こそスニーカーだけど、お洒落な大人な装い。

片や私はオフホワイトのチェスターコートに、サーモンピンクのニットワンピ、それに80デニールの黒タイツにロングブーツ。


「せめて色を合わせる!」

「色あわせられたら葬式だろうが」

「でも」

「お菓子のパッケージみたいでいいじゃねぇか」

それが嫌なの!

だいたい、29にもなってお菓子のパッケージってどうなの?
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