強引男子にご用心!
独りよがり



珍しく暇な金曜日。

久しぶりに資料保管室の整理整頓中。

葛西さんと私の噂ブームはすっかり下火になり、今度は水瀬に飛び火した。

飛び火したけれど、水瀬は片手間にあしらっている。

……女王様気質の美人医師に太刀打ちしようとする人は、かなり少ないらしい。

私の時とは大分違う。

ま、私は経理の“お局様”だし。
普段から地味な眼鏡の素っぴんだし。

皆様の競争心も、私の時はメラメラしちゃったのかもしれない。

……最近は本当に“磯村さんの彼女”扱いが自然に増えた。

増えたけど、噂話は下火になっている。

付き合う前は取り囲まれたのに、付き合い初めたら放っておかれるのは、なぜなんだろう。

そんなことを考えながら、メチャクチャに詰め込まれた段ボールのファイルを年代順に詰め直す。


「総務にいないと思ったら、こんなとこで何やってんだ?」

「ひゃぁあ!」

持っていたファイルを取り落とし、慌てて振り返ると磯村さんがいた。

「な、何ですか。驚かさないで下さい」

磯村さんは眉を上げ、それから落ちたファイルを拾ってくれる。

「いや。あんたがここにいるって聞いたから。また冗談みたいな格好してるの見に来た」

ファイルを受け取り、段ボールに詰めてからガムテープで閉じる。

4年前の資料は、あまり使われないだろう。

「……からかいに来たんですか。暇ですね」

「仕事中は相変わらず厳しいのな」

「当たり前です。会社には仕事しに来ているんですから」

「残念。もう昼休みだぞ?」

え。あら。

「もうそんな時間?」

手袋を外し、ポケットから時計を取り出して見ると、するっとゴーグルを外される。

「ちょ……っ」

「邪魔」

「邪魔って……」

言いかけたら、マスクをずらされて、あむっと食べられるみたいに唇を塞がれた。

「ちょ……っ! ここ会社!」

「知ってる。だから充電」

「意味解らないし。充電って……」

「最近、忙しかったからな」

そう言いながら、頭に手を置かれた。

最近、企画のコンペに付き合う形で営業も残業が増えている。

水瀬に注意をされている社員はうなぎ登りらしい。

そんな訳で帰りはバラバラ、最近はお互いの顔を合わせるのも少なかったけれど。

「離れてください」

引き剥がすと、まじまじと見つめられた。

「今度は何ですか」

「いや。本気で慣れてきたと思って」

そうかもしれない。

だって、磯村さん、ことある事に触ってくるし。

部屋でまったりしてる時も、二人でテレビ見ている時も、肩に触れているか髪を触っているかだし……
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