強引男子にご用心!

オマケ

オマケ:結婚式の服装
(時期的には、山本さんと彩菜ちゃんの結婚式辺りを想定してます)
*****




連れてきてもらったのは、お洒落で、高そうで、かわいいお店。

男の人なら、普通なら引きそうだけれど、私の“彼氏”はついてきた。

「ちょっといいか? 華」

「はい?」

「どうしてお前は、そういった落ち着いたモノを選ぶんだ」

手に取ったパンツスーツと、難しそうな顔をして、何故か腕を組んで仁王立ちしている磯村さんを見比べる。

今日は彩菜ちゃんと山本さんの式に着ていく服を選びに来ていた。

夏場は自転車通勤だからラフな格好が多く。
冬場は“これぞリクルート”的な格好が多い私。

結婚式にお呼ばれしても、同窓会に呼ばれても、当たり前に欠席を貫いていたから、そんな場に着ていく服もなければ、どんな装いをすればいいのかも解らない。

さすがに普段着はまずいだろうし。
だから、ラフ過ぎず、カッチリし過ぎず、カジュアルなのを選んでいるつもりなんだけど。

「いいか、華子」

「うん?」

と~っても真面目な顔をされる。

「結婚式に招待された女ってのは、華やかな花なんだよ」

「華やかな?」

「盛れとは言わねぇが、ドレスアップ位するのが常識だ」

手に持ったパンツスーツを眺め、眉をしかめた。

グレーのパンツスーツのシルエットは素敵だけど、

「じゃ、キャメルにしようかな……」

「色の話じゃねぇ」

そうだよね。

「でも、ガーデンパーティーだから、足なんて出せない……」

「今は便利な厚底サンダルがあるだろうが。あれで乗りきれ」

「でも……」

言いかけたら、手を繋がれてサクサク歩きだされた。

「お前は何色が合うかな」

「え……! 磯村さんが選ぶつもり?」

びっくりして目を丸くすると、見透かすような表情で振り返られる。

「そのつもりだよ。心配しなくても、際どいのは選ばねぇから」

「で、でもー」

「いいか、華子」

「うん?」

「そもそも男が派手に着飾る訳にいかない。それは解るな?」

男性のフォーマルはスーツだよね。

暑くなってきているのに、可哀想と言えば可哀想。

「結婚式に、女どもにまで黒を着られてみろ? どんな景色が想像できる」

ガーデンパーティか。

思いついた色は緑色。その緑の中を右往左往する黒の服装の男女。

頭の中で木魚が鳴って、ついでにおりんまで鳴った。

チーンって。

「……よろしくお願いします」

「解ればいい。まぁ、そこらの小娘より可愛くしてやるから……化粧くらいはしてやれよ?」

「え。塗らなきゃだめ?」

「化粧品は俺はからっきしだよ、さすがに」





そんなことを言うから、とりあえずその日の晩に化粧した顔を見せてみた。

「とりあえず軽くだけど、こんな顔になるわ」


じっと無言でいる。


無言で……眺められている。


とても、眺められている……。


「落としてくる」

「おー。落としてこい。そして、式では化粧すんな」

「悪かったわね。化粧し慣れないから下手で」

ふくれたら、苦笑された。

「いや。似合ってたぞ?」

似合ってた?

「ただ、化粧するなら籍入れてからにしろ」

「似合っていたの?」

「似合ってた。だからするな」

似合っていたなら、大丈夫だと思うんだけど……どうなの?

「とりあえず、女は化けるってのがよくわかった」

「そんなに濃くしてないわよ!」

「んな事は解ってる。たまにはお前、こっちの気持ちも汲み取れよ」

情けない顔の磯村さんを見て、ニヤリとする。

「なぁに? 見慣れないから落ち着かない?」

「まぁ……そそる顔になるな」

返って来た返事に固まった。

「…………顔、洗って……」

離れようとしたら、パシッと手を捕まれて、

「たまには新鮮でいいかな?」

企みを含んだ笑顔に戦慄する。

「え。あの。やめよう?」

「いや? そりゃ無理だろう」

唐突に抱き上げられて慌てふためく。

「ちょ……っ! せめて化粧落としてから」

「却下」

その真剣な顔はヤバイって。

どこか色香を感じる闇色の視線は……とても困る。

「そんなつもりは無かったんだって」

「聞こえない」

スタスタと寝室に向かうと、ベットに落とされた。

そして見上げて見えた笑顔に、冷や汗が……。



「む……無理」

「いや、こっちが無理だろ」

「だって……」

「ダメか?」


聞かれたら、困るのわかってるくせに。


顔を赤らめて睨んだ私に、磯村さんは小さく笑う。


「ダメって言われても、無視するけどな」


やっぱり彼は鬼畜だと痛感したそんな夜。







2015/7/5 ~ 2015/10/1
黒猫ノア内拍手お礼使用
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