強引男子にご用心!

この男は鬼門だわ。

まぁまぁのルックスに、トップクラス近い営業成績の磯村さん。

独身の32歳で、それなりにモテてはいるみたいだけれど……

会社でって言うのはどういう事なの?

それも、これで二回目なんですけど!

前回は給湯室だったし、今回は資料保管室ですか!

この男はデリカシーもモラルも常識すらもないらしい。

さっさとファイルを探そう。

「ところでさ。あんたの格好……ギャグか?」

「私は真面目に仕事をしています」

不真面目なのはあんたの方でしょう!

と、睨み付けたら吹き出された。

「つーか、マスクに三角巾に白手袋にゴーグルって、ギャグにしかならねぇだろうが」

「資料保管室はホコリがありますから。これが普通です」

私はね。

お目当てのファイルを見つけて、段ボールを棚に戻す。

やれやれ、さっさと出てしまおう。

こんなところに二人でいたって、空気が悪くなるだけたし、ホコリくさいし。

ああ、制服も着替えたい。

資料保管室を出て、マスクを外してゴーグルも外す。
いつも通りの眼鏡をかけてから、三角巾を取った。
取った拍子にバレッタが外れたけれど、手袋を外して手早く髪を直す。

それからゴーグル以外をゴミ箱に捨てたら、声をかけられた。

「総務部のお局様って、男いないってホントらしいな」

「仕事に男女もないでしょう」

「そういう意味じゃねぇよ。あんた、キスもしたことないだろう」

「何を……」

振り返ってはいけなかった。

磯村さんの挑発なんて無視してしまえばよかった。

それなのにまんまと振り返り、振り返った瞬間に唇が塞がれた。

とても間近に磯村さんの顔。

押し付けられた暖かい感触。

するりと入り込んでくる柔らかい何か。

口内をぬるりと動いて、歯をなぞる。

なぞったソレが、彼の舌だと気づいた。


気づいて、意識を手放した。











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