強引男子にご用心!

降りる駅まで悩んだ挙げ句、ボールペンでつついて起こしてみたら、少しだけ睨まれた。


いや、だってねぇ?


多少の愛想笑いを浮かべて、駅前で磯村さんと別れると、傘をさしながら近くの喫茶店に向かう。

雨降りと、冬には常連になる喫茶店。
綺麗な店内がありがたい。

そこで紅茶を飲みながら時間をつぶして、会社の自動ドアが開く頃に出社する。

就業時間にはまだ早い。
なので、少し薄暗い廊下を歩いてロッカールームにたどり着いた。

誰もいない様に感じるけれど、誰かは必ずいる空間。

何だか不思議。

着替えてから警備室に向かい、顔見知りの警備員さんに挨拶してから総務部の鍵を借りる。

ドアを開け、電気をつけてから首を傾げた。

早すぎたかも……しれない。

いいか。
出来ることから始めちゃおう。

そうして一日が始まった。



一日の始まりはいつもゆっくり。

ゆっくりとだけれど確実に。
それが総務部の基本。

「先輩~。何だか、通達はこれだけでしたかぁ?」

「社内報? 管理は主任がメールでくれてるはずだけれど……」

千里さんが眉をしかめているので、通りがかりに社内報の文章を確認。

「……経理の通達抜けてないかしら」

「あ。やっぱり抜けてますか。どれだろう……」

「千里さん。メール手動受信になっていない?」

「あ。やば……」

「やばくないやばくない。まだ間に合うから落ち着いて」

そう言いながら手元の書類を眺めていたら、しんとしたまわりに気がついた。
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