強引男子にご用心!
それから



総務部は比較的に雑用が多い。

経理部や人事部への連携や、多岐に渡る書類管理、それから社内報や社内連携、備品の在庫管理に、勤怠管理に、各支社への通達が毎日の仕事。

取締役系の事は秘書課がその一部を担っているから、全部が全部と言うわけじゃないけれど、それなりに仕事は多い。

多いから、暇を見つけるのはなかなか難しい。


はず、と言うのが前提。


「先輩、忙しそうですねぇ?」

静かーに近づいてきたのは千里さん。

「……どう見ても、そうはならないでしょう」

営業所への通達も終わったし、経理からのお小言も頂戴したし、備品の在庫チェックでもしようかな……なんて思ってましたよ。


「先輩にお願いが……!」

「……何?」

「名刺届きましたので、各部にお届けを……」

「いいわよ。手が空いているし」

受領書と印鑑を持って、千里さんを振り替えると、ニッコリと段ボールを示された。


「ほとんど営業部ですからぁ」


……台車いるかな。

軍手を取り出して、段ボールを台車に乗せてエレベーターに向かう。

いつもの作業行程よね。

申請者のリストを見ながら各部巡り。

最後に営業部に立ち寄って、何故か皆の視線を浴びた。


「すみません。名刺、お届けに……」

多少、視線に怯えながら、近くの営業事務の子に話しかける。

「あ。はい。お預かりします」

「受領書を記入して頂けますか?」

「私が代筆でも?」

「問題ありません」

さすがに名刺申請者が9名もいたら、一人づつ手渡しなんてしませんよ。

名前と顔を一致させるだけでも一苦労になってしまう。

受領書を書いてもらって、承認印をして、経理に渡す分と残していく分に分けていたら、磯村さんが近づいてきた。

「僕の名刺ありますか?」

「……ありますよ。確かめておいて下さい」

「了解。伊原さん。今夜は空いてます?」

「は?」

「だから、今夜、暇ですか?」


……何をイキナリ言い始める?

びっくりしている営業事務の子と目があって瞬きを繰返し、


「忙しいです」

「ああ、そう言われると思いました」

ならば何故、ここでそんな質問を?

不思議に思いながら首を傾げるけれど、楽しそうに自分の名刺を受け取って出て行く磯村さんを見送った。


「何なのあの人……」

何故か、目の前の営業事務さんの同情的な視線を受けながら、総務部に戻って気がついた。


「先輩。磯村さんに誘われたんですかぁ?」

「え? ああ、まぁ……」

「営業部って、大所帯ですからぁ、噂早いですよぉ?」

「…………」

あの男…………

何が狙いなの?
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