心動
喋らない心の少年

「危ない!!!」

その大きな声にビックリした時には遅かった。
ゴチンッと鈍い音がして、訳がわからず地面に背中から倒れた。
バタバタと足音が聞こえて、意識だけが遠のいて行った。

「・・・い、・・・みれ!!」
微かな声が聞こえる。
少し苦い匂いがする。かすれた景色をよく見ようと目をこすると、目の前に現れたのは梅であった。
「菫!!」
パチッとあいた大きな瞳は梅をうつす。
「・・・どうしたの?梅ちゃん」
そう言うと、梅はホッとしたような顔をした。
「どうしたの?じゃないよ!菫、電信柱に思いっきりぶつかったんだからね!」
菫はキョロキョロとした。
学校の保健室に菫たちはいた。
湿布の匂いやくすりの匂いが混じっている。
そして、梅の声が鮮明に聞こえてきた。
「しかもその後、背中から倒れて地面に頭ぶつけるし!!たんコブできてるんだよ!!可愛い顔に傷できてるんだよ!!」
と梅が泣きそうになりながら言うので、菫は梅の頭をぽんぽん撫でる。
『本当に心配したんだから・・・』
そんな心の声を聞いて、菫は微笑んだ。
梅の心の声は、とても温かい。いつもという訳ではないが、自分に対してはいつも温かな優しい心の声を向けてくれるのが梅であった。
「・・・ありがとう」
消えてしまいそうな声で菫は言うと、梅が笑った。

そして、梅の後ろにあの少年がいた。
「気がついて良かった。」
「菫を助けてくれたのは、榛名君だよ!」
そう言われて、意識が飛ぶ前の声を思い出した。
「・・・あ」
「危ない!!って叫んだんだけどね、遅かった。何か考え事してた?」
そう榛名がいうと、静かに頷いた。
「結構真剣だったからさ、悩み事かなんか?」
菫はブンブンと首を横に振る。
『いつもの、心の声だね』
と梅の心の声が聞こえた。
すると、菫は首を縦に振った。
「え?どうしたの?」
榛名は言うと、梅が笑った。
菫は少し恥ずかしくなって、下を向いた。

「んー、なんというかね、そのー。」
と梅は言いづらそうに言った。
「?」
不思議そうに榛名は二人を交互に見た。
二人は今までに菫の能力のことを話したことがいくつかあるが、信じてくれる人の方が少ないのだ。
というか、信じてる人は菫の両親と梅の両親くらいで、友達はほとんど信じてくれず、呆れて離れていく友達もいたほどだ。
梅も気を使って、ないしょにする。
菫も持ってはいけない能力であると思い、いうに言えないのである。

「こればっかりは、菫のことだし、私からは言えない。」
と梅は申し訳なさそうに言った。
菫も梅に「いいのいいの!」と声をかけた。
榛名は、何か察したのか
「そっか、無理に話さなくていいから、話せる時が来たら話してくれれば・・・」
と無理に詮索しようとしなかった。
菫は少し安心したような顔をした。そしてすぐに不思議そうに榛名をじっと見た。
「?・・・どした?」
梅も菫を見る。
「・・・聞こえない。」
「?」
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