偶々、
本当のところ、数分前に会っただけの人間からいきなり名前を告げられても、正直困惑するだろうし。

そして、自分を名前を教えなければいけないんじゃないかと、気を遣わせてしまうのが嫌だった。


「気持ち悪くないですか?」

田中さんの躊躇いがちに動く唇に、わたしは不思議そうに首を傾げる。


「突然、偶々出会ったやつから名前言われるの。引くでしょ?」


「…え?」

言わんとしていることがなんなのか、ぽかんとしていると、考えあぐね話し続ける。


「なんていうか、…警戒しませんか?女性の高山さんからしてみたら、困りませんか?物騒な事件多いし、…って、言い訳みたいですよね」

困らないかと、聞いておいて自分が困惑している様が可笑しくて吹き出しそうになる。
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