偶々、
「笑うから馬鹿にしてんのかと思った」


「ち、違う違う、ほんと。違う違う」


「あははっ」

大笑いした後、「慌て過ぎだからね」と。くしゃくしゃにした顔を向けられて、ほんの一瞬心の奥がざわついた。


否定して慌てたのは、ちょっとだけムッとして見せたから。だから、そんなつもりはなかったんだと全身を使って目一杯アピールしたのだ。


震えるほど寒いはずなのに、身体中が熱くて鏡を見なくても顔が赤くなっているのがわかる。

でも、それは頰を染めている田中さんも一緒だったから、例え気付かれても寒さのせいにできた。


あんなに気にしていた時刻を気にならなくなったのも、寒さのせいにしておけば納得がいく。
< 22 / 41 >

この作品をシェア

pagetop