偶々、
灰皿へタバコを押し付けて、ちらりと田中さんの座席に目線を送ってみる。よく見えなかったがきっと寝入っているのだろう。

寝たふりして名刺なんて手使って卑怯だと言いに行きたいのを抑え、一枚の名刺を大切そうに財布へとしまう。


今すぐにでも電話帳に入れたいところを我慢した。帰ってもう一度見つめたいから。

帰ったら名刺入れに移そう。でも、名刺入れだと他のと混ざってしまうから、と。考えを巡らせて、頭の中が一気に忙しくなる。


あのマンションを出る準備と、パソコン買おうかな。献立考えなきゃ。

やらなければいけないことはたくさんある。

一つずつゆっくり片付けて整理が付いた時、連絡してみよう。前を向いてみよう。


そんな風に思えるようになったのは、寒空の下で偶々出会った田中さんのおかげかもしれない。

変わるきっかけを与えてくれたのは、遅れが出た新幹線っていうのが引っかかるけど。



< 40 / 41 >

この作品をシェア

pagetop