私を惚れさせて。私の虜になって。
「あ!飯きたぞ!」

その手もあっけなく離されて、ご飯を配っているところに向かう。

「持ってくるから」

立とうとした私を止めた。

「…どーも」


うまくお礼が言えないけれど、小さく呟いて松木の背中を目で追う。

一際背が高い松木は、やたらと目立って見えた。

人ごみに入っていって、中心の段ボールの中に手を突っ込んで。

あれ、その後は何をしたんだろ。よく見えなかった。

「何、ガン見してんの私」

自分を一喝するように、声に出して言う。

「ほいよっ」

不意にした声にすぐには反応出来なくて、投げてもらったペットボトルを取り損ねる。

「ざんねーん」

無邪気に笑う顔。

「はい、昨日と同じだぞ」

今度は丁寧に手渡しをしてくれる。

「ありがと」

「ん」

短く返事をすると、ラップを外し出した。

「食わねぇの?」

私が固まってるのを見てくれてて。

「なんか、まだ…」

いざ食べ物を目の前にすると、食欲が出てきてくれない。

「そっか」

俺は食べるぞって言って、松木は食べ始めた。

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