僕と三課と冷徹な天使

エロ本

ある日、
僕のデスクにエッチな雑誌が置いてあった。

うわっと思って
とっさにコオさんの席を見たら、
幸いコオさんはいなかったので安心した。

でもこれどうしよう・・・

思い切って、じゅんさんに

「これ、じゅんさんのですか?」

と雑誌を見せると、じゅんさんは

「あ、そうだけど、吉田さんに貸した本だ」

と吉田さんを探して言った。

吉田さんか・・・何だか嫌な予感がしたが
とりあえず雑誌を吉田さんのデスクに置いた。

少しすると
吉田さんはコオさんと談笑しながら帰ってきた。

デスクに戻ると吉田さんは

「なんだ、灰田。
 これ良かったから貸そうと思ったんだよ」

とわざわざ雑誌を僕のところに持ってきた。

え~・・・いらないのに・・・

3次元の女子の雑誌はリアルすぎて苦手だ。

でもコオさんに見られて
不快な思いをさせたくないので
とりあえず引き出しにしまった。

何も悪いことをしていないのに、
何かうしろめたい気持ちになる。

コオさんが席を立ったとき、隙を見て
僕は本を隠しながら吉田さんのところに行き、

「僕、こういう雑誌は苦手なので、いいです」

と小声で言いながら雑誌を渡した。

「何だよ、中身見てないだろ?
 ちょっと見てみろよ。
 コオに似てる女の子いるから」

とニヤつきながら吉田さんは言った。

そんなエッチなコオさんなんて見たら
大変なことになってしまう、と僕は焦って

「いや、本当にいいです。困ります」

と言うと

「何やってるの?」

と背後からコオさんの声がした。

僕はとっさに雑誌をスーツの上着の中に隠した。

「いや、灰田がエッチな雑誌を
 読みたいって言うからさ、
 じゅんに持って来てもらったんだよ」

と吉田さんはわざとらしい声で言った。

えっ?僕がそんなこと言うわけない。

エッチなものならネットで調達できるし、
何度も言うように僕は2次元のほうが・・・

僕の戸惑いに気づいたのか、コオさんが

「ふーん。灰田、ほんとに言ったの?」

と聞いた。

僕は頭が真っ白になった。

とりあえずこの場から消えたくて

「はい。すみません」

と小声で言った。

僕はデスクに戻り、
すばやく雑誌をしまってパソコンに向かった。

視界の隅でコオさんは
仁王像のように吉田さんを見下ろし、
吉田さんはマンガみたいに
口をとがらせた顔をしていた。


僕が休憩フロアでコーヒーを飲んでいると、
吉田さんがやってきた。

「なんでコオに本当のこと
 言わなかったんだよ。
 俺に恩をきせようとしてるのか」

「そんな話でコオさんの手を
 患わせたくなくて。
 すみません」

僕は何となく謝った。

「謝るなよ。完全に俺が悪いのに。
 なんだよ・・・」

と情けない顔をして吉田さんは

「俺の負けだ。
 お前のコオへの愛には負けたよ」

と言った。

え?

そんな話してたっけ・・・?

吉田さんは続けた。

「俺はさ、コオの同期として、
 最大の理解者として
 今までやってきたわけよ。
 それが新人のお前に取られてさ。
 コオも灰田灰田ってお前のことばかりでさ。
 つまらなかったのよ」

吉田さんとコオさんの会話って
ほとんど喧嘩だよなあ・・・と思ったが、
吉田さんはかまわずに続けた。

「だってコオはあんな性格だから
 同期の友達もいなくて、
 飲みに行くのは俺たちとだけで、
 なのに優秀な新人が来たとたん
 俺たちには目もくれずに・・・」

吉田さんは両手で顔を覆った。

なんだか厄介な話になってきた。

でも僕に何か出来るわけないし、
正直なところ、仕事に戻りたい。

僕は思い切って

「・・・あの、吉田さん、
 今度飲みに連れて行ってください。
 ゆっくり昔のコオさんの話とか、
 聞かせてください」

と言ってみた。

吉田さんは目を輝かせて

「そうだな!そうしよう!
 そのうち行こうな!」

と乗ってきた。

「はい。よろしくお願いします!
 では僕は戻ります」

と勝手に切り上げた。

吉田さんは

「おう!仕事がんばれよ!」

とご機嫌に送り出してくれた。

我ながらうまくやったなあと思う。

この時あの雑誌が
まだ引き出しに眠っていることを
僕は忘れていたのだった。
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