僕と三課と冷徹な天使

残業しない

三課に戻ると、
コオさんはまだ会議から戻っていなかった。

ほっとする僕。

あっこさんとの話が長くなったから
やばいなあと思っていたのだった。

安心して仕事に取り掛かる。

コオさんの気持ちが
わかった気がしていたせいもある。


今日も終業時刻を迎えても
帰ることはできない。

仕事はまだまだ溜まっている・・・

コオさんも同じだと思っていた。

しかしコオさんが

「今日は用事があるから帰るけど
 灰田はどうする?残業する?」

と言った。

え?
今までそんなことはなかった。

体調が悪くない限り、
最後に鍵を閉めて帰るのはコオさんだった。

それで僕は仕事があるのに残業をやめて
無理やり帰ることもあった。

「あ、えっと、
 僕一人で残ってもいいんですか?」

なんでコオさん帰っちゃうの?
という疑問よりも先に違う疑問を聞いた。

「うん。もういいかと思って。
 じゃあ鍵の閉め方教える」

と言ってコオさんは立ち上がった。

いや、まだ残業するとは言ってないんですが・・・

まあ仕事は山積みだから帰れないんだけれども。

僕に一通り教えたコオさんは

「じゃ、お先~」

と言って、帰ってしまった。

三課にぽつん、と取り残された僕は
心の中でもぽつん、と残されたようだった。

大事なこと
何も聞けていない。

同窓会ですか?とか
買い物ですか?とか
聞きたかった。

でもいそいそしていて
なんとなく聞けない感じのコオさんだった。

それに、いつものコオさんだったら
僕に用事の内容を言って
帰ってくれると思う。

・・・きっと僕には言いづらい用事で
聞いてほしくないことだったんだ。

結局仕事に身が入らない僕。

そして落ち込む僕。

すると部長がやってきた。

三課に入るなり

「あー、コオはいないんだったな」

と言って

「灰田君、無理しないようにね」

と言って出て行こうとしたので
僕は

「あの、部長、コオさんは何で帰ったんですか」

と聞いた。

考えるよりも先に言葉が出ていた。

「・・・え、えー、知らないよ・・・」

部長もかなり嘘をつけないタイプらしい。

さすがは元三課。

絶対知っているとにらんで
僕は心の奥底で思っていることを言ってみた。

「坂崎さんと会っているんじゃないですか?」

坂崎さんはよく残業時間にも資料を取りに来るが
今日は来ていない。

もしかして・・・いや、多分そうだと思っていた。

「え。あー・・・まあそうかもな」

と苦笑いで部長は答えた。

僕の気迫におされたようだ。

僕はあからさまに
がっかりした顔をしてしまったのだろうか
部長が

「まあ、たまにはコオもデートするよ」

と励ましにならないことを言った。

さらにうなだれる僕。

「灰田君、飲みに行こうか」

と意外なことを部長が言った。

完全に仕事には身が入らないし、
多分部長のおごりだ、
やけ酒やけ食いにちょうどいいと思って

「はい」

と僕は返事をした。
< 63 / 84 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop