鈴姫戦記 ~ふたつの悲しい恋物語~





 すずかは、しばらく俺に抱き着いて離れない。


 彼女は、ゆっくりと眠っている間、どうしていたのかを話してくれた。


 すずかは、どこまでも続く闇の中に、一人、さ迷っていたらしい。


 どれだけ、怖かったのだろう。


 母親になった今も、すずかは過去に、戦いを経験した。


 それはいまだに、すずかの古傷として、心に刻まれている。


 
「・・・・・・怖かった・・・・・・。


 ずっと、このままなんじゃないかって。


 独りで、ここにいなきゃいけないのかもしれないって」



 そう言って、彼女は俺の胸に顔を埋めた。


 俺は、優しく、そして強く、彼女を抱きしめる。


 もう二度と、離さないように。



「──おかえり、すずか」



「・・・・・・ただいま、千・・・・・・!」



 彼女の赤い唇に、優しく口づけを落とす。


 すると、すずかはふにゃりと笑って・・・・・・。



「ようやく、ここに帰ってこれた・・・・・・!」



 そう、言った。



「ああ」



 俺は、すずかを安心させるように、笑う。


 
「あ、りんに会ったらどうだ?


 りんが、一番お前のために、戦っていたんだ」



「フフフ、そうね。


 お礼言わないとね」



「??」



 知っていたとでもいいたげな彼女に、首を傾げてしまう。


 俺たちの行動、見えてたのか?



「とりあえず、何か食べるか。


 ずっと、寝たきりで、何も食べていないだろう」



「そうね、そうするわ。


 ・・・・・・あれ?」



「どうした!?」



 起き上がり、ベッドから降りようとしたすずかの動きが止まった。


 慌てて彼女に駆け寄る。


 すると・・・・・・。



「足に力が入らないわ・・・・・・」



 うるうるとした瞳でそう言った。


 ああ、寝たきりだったしな。



「きっと、脚の筋肉が弱ったのだろう。


 仕方ない。


 俺が連れていく」



「ッキャ!」



 俺は、軽々彼女を抱き上げた。


 ・・・・・・また痩せたな。


 まあ、なにも食べていないし。


 早く、栄養のあるもの食わせなきゃな。





 
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