この恋、永遠に。

犯人

 美緒の手術が無事終わり、彼女がICUに入ったとき、それまで一言も話さなかった沢口が話があると俺を呼び出した。
 彼女から片時も目を離していたくなかった俺だったが、沢口のあまりに真剣な表情に俺は一時、美緒を孝に任せてその場を離れた。
 とはいえ、ICUは家族以外入れないということだったから、孝には部屋の外で待機してもらった。

「お前には…感謝しているよ、沢口。美緒はもう大丈夫だ」

 沢口と、美緒のいる部屋から一番近い非常階段に移動して二人きりになったとき、俺は彼に礼を述べた。いつも彼は俺の為に冷静な判断を下してくれる。

「いや…、当然のことだ。俺もほっとしているよ。彼女が無事でよかった、本当に……」

 沢口の表情から、彼も本当に心配してくれていたことが伝わってくる。美緒はもう、俺たちの誰にとってもなくてはならない存在だ。
 沢口が俺の顔をちらりと見た。口を開きかけて一瞬躊躇う。そして大きく息を吐いた。

「柊二、お前が会社を出るとき、ロビーで刑事と会っただろう?」

「ああ」

 覚えている。年配の男と、若い男の二人組みだった。そういえば、彼らは何のために来たのだろう。営業の女子社員に用事があるようだった。

「彼らは何の用だったんだ?」

 俺が促すと、沢口はまたいったん口をつぐみ、やや間をおいて言った。

「渡辺さんが以前アパートを荒らされた件に関係しているそうだよ」

「……何だって?」

「証拠が少なくてなかなか分からなかったらしいが、目撃情報があったらしくて。それによるとうちの営業部の斉藤圭子が絡んでいるかもしれないとの事だった。今、彼女には警察が任意同行を求めて事情を聞いているが。彼女はあの時既に帰宅した後だったから、自宅に向かってもらった」

 沢口の話を聞きながら、俺は頭の中で斉藤圭子という女子社員を思い浮かべた。正直、社員一人一人をいちいち覚えておらず、俺の頭の中にその女子社員がすぐに出てこない。沢口が刑事に聞かれたときに瞬時に答えていたのを思い出すと、やはり彼は優秀な秘書だと納得する。

 だが、営業部のその女子社員が美緒の部屋を荒らす理由が思い浮かばない。二人に接点などあるのだろうか。美緒は会社ではあまり誰かと親しくしているのを見たことがない。一人だけ、営業の高科とはよく話していたのは知っているが。
 俺は黙って考え込んでしまった。美緒には聞ける状態ではないから、一度その斉藤という女子社員に話を聞く必要がある。

「柊二?何か心当たりが?」

「…いや、全くない」

「……そうか。まあ恐らくそうだろうとは思っていたが」

 沢口が小さく嘆息した。

「とりあえず俺は一度会社に戻るよ。渡辺さんが目を覚ましたら連絡をくれ」

「ああ、分かった。ありがとう」

 孝にもお礼を言って二人には帰ってもらった。
 医者はもう大丈夫だと言ったが、彼女が目覚めるまで安心はできない。
 美緒、早く目を覚まして俺を安心させてくれ―――。君の笑顔が早く見たい。


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