この恋、永遠に。
 私が実家に帰って暫くした頃、手紙が来た。差出人は斉藤さんだった。
 彼女は殺人未遂で逮捕されたと聞いたが、その後、彼女の犯行は衝動的で殺意は認められないとなり、傷害罪に切り替わったらしい。

 彼女の手紙には私に対する謝罪が便箋二十枚に渡って書き綴られていた。彼女は私と高科さんが次第に仲良くなっていくのに嫉妬していたらしい。それを牽制するつもりで部屋を荒らしたということ、その後、あの日会社を訪れた私の左手薬指に光るエンゲージリングを見て、勘違いした彼女は衝動的に行動してしまったらしい。

 私はあの荒らされた部屋に残されたメモはてっきり柊二さんを指しているのだと思って不安になっていたけれど、実際は斉藤さんの勘違いで、高科さんを指していたらしい。あの時あのメモを私がちゃんと柊二さんに渡していれば、私もこんなことにはならなかったし、斉藤さんだって罪を犯さずに済んだのだ。
 今更後悔してもどうにもならないけれど、私がもっとしっかりして、もっと柊二さんを信頼するべきだった。そう思うと彼女を責めることは出来なくて、私も彼女に返事を書いた。元気でやっていることが伝わってくれればいいのだけれど。

「綺麗ね………」

 川沿いの桜並木を眺めながら私がうっとり呟く。すると母が帰りに公園に寄って行こうと提案してくれた。母も忙しいのにリハビリの送迎以外で手を煩わせたくはない。私がそう言って断ると、今日はもう用事がないし自分もたまには気分転換をしたいと母は笑った。



「うわぁ!すごい!」

 リハビリが終わって母が連れてきてくれたのは、川沿いの桜並木よりももっとたくさんの桜の木がある大きな公園だった。こんなところ、私は来たことがない。

「すごいでしょ。美緒が上京した後に出来たのよ」

 公園の脇に車を停めた母は、私を車から降ろし車椅子を押してくれる。大きな、まだ真新しいこの公園はかなり広そうだ。入り口から見る限り、敷地の周り全てを桜並木で囲い、満開のこの時期は、まるで空が一面うすいピンクに染まっているようだ。時折風に吹かれて舞う花びらが、私を歓迎してくれているように思える。私は降りてくるその花びらを両手をかざして受け止めた。

「美緒、あなたは本当に幸せね」

 母がしんみりと呟く。

「…うん。いつもありがとう、お母さん。お父さんにも…本当に感謝してる」

「……そうね」

 母の声が震えている。もしかして、泣いているの?

「どうしたの?お母さん……」

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