この恋、永遠に。
「それで?」

「だからまず一つ目の条件として、お前の会社の社員はだめだ。体の関係が出来た途端、お前に結婚を迫るだろうからな」

 侮蔑を含んだ笑みを浮かべながら孝は続けた。

「同じ理由で、お前の所の社員じゃなくても適齢期の女はダメだ。というより、社会人はやめた方が無難だな」

「おいおい、それじゃ随分絞られるじゃないか。学生か?人妻か?どちらにしても犯罪だろ」

 真剣に話を聞いてやってたらこれだ。馬鹿馬鹿しくてこれ以上聞いていられない。

「まあ聞けって」

 孝が立ち上がろうとした俺を制した。

「考えたんだけど、大学生くらいが丁度いいと思うんだ」

「大学生ねえ…」

「学生ならまだ結婚は考えないだろうし、卒業しても就職するだろうし、当分安泰だろ?」

 そうだろうか?近年の就職難で例え大学を卒業していても、すぐに結婚するなどと言い出したりしないだろうか?
 俺がそれを指摘すると、じゃあ正体を明かさなければいい、と孝は言った。

 どちらにしろ、社会人を恋人にするよりはまだ世間の常識に疎い、気楽な学生の方が都合がいい、というのが孝の見解だった。
 完全に納得した訳ではなかったが、確かにこれ以上俊子さんの見合い話に付き合うのもウンザリだったので、俺は話を合わせる事にした。

「それじゃあ残る問題はその学生を捕まえるチャンスだな」

 それが一番問題のような気がする。
 そもそも学生と知り合う機会など皆無だ。ワーカホリックとまでは言わないが、仕事ばかりしている人間がどうやって学生と出会うと言うのだろう。
 それに、いくら手頃な恋人ごっことはいえ、全く好みじゃない女を相手にするほど暇じゃない。
 たまにデートして、抱きたいと思えるような相手じゃないと困る。

「言っておくが、その恋人ごっこの相手を探すために合コンに行く、なんてのは勘弁してくれよ」

 乾いた笑いを零しながら、俺は残りの水割りをぐいと煽った。
 この話は終わりだ、と言う代わりに伝票を掴む。
 が、その伝票はすぐに孝に奪われてしまった。

「あの子たちの中から適当に選んだら?」

 そう言った孝の視線の先を追うと、男女数人のグループが入り口近くのテーブルで盛り上がっていた。
 見ると一人、盛り上がるグループの中で控えめに笑う女性の姿が目に入る。

 薄暗い間接照明が雰囲気を出しているこのバーの中では、はっきり見ることは出来ないが、さらさらなストレートの黒髪に、パッチリと開いた丸い瞳。幼さの残るその子はまるで高校生に見えた。

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