この恋、永遠に。
 彼は頑として譲ろうとしなかった。本当に分かりやすい。美緒は彼が自分に好意を寄せている事を本当に知らないのだろうか。
 俺は苛ついた。デスクを人差し指でトントンと叩く。

「それは有難いが、僕がいるときは君の手を煩わせる必要はないよ。僕が美緒を送って行くのは当然だからね」

『どうして当然なんです?美緒先輩はあなたからの……』

 彼がいったん言葉を区切った。俺が何だと言うのだ。はっきり言わない彼に俺の苛立ちが更につのる。

「…とにかく迎えに行く。場所を言ってくれ」

 やや語気を強めて言うと、彼は渋々といった感じでお店の名前を告げた。パソコンで場所を検索する。ここなら十分程で行けるだろう。

「わかった。ありがとう。十分で行く」

 パソコンの電源を落とし、上着とブリーフケースを掴むと、俺は足早にオフィスを後にした。



 予想通り十分足らずで教えられた店に着いた。路肩に車を停めると目的の店に向かう。意外なことに、店の前に彼が立っていた。

「…早かったですね」

「ああ、こんな寒空の下で待たせてしまって申し訳ない」

 季節は秋とは言え、夜になると冷える。

「別に。あなたのためじゃないですから」

 仏頂面を崩そうともせず彼が答える。俺は彼に続いて店内へと入っていった。
 中へ入り奥の席へ行くと、美緒が机の上に小さな頭を突っ伏していた。かなり酔っ払っているのだろう。美緒の白い頬や腕がほんのりピンクに色づいていて、俺は思わずその肌を隠したい衝動に駆られた。

「あー!本宮さん!」

 不機嫌な彼とは違い、上機嫌な彼の姉が、甲高い声を上げる。俺は愛想よく会釈をした。

「こんばんは。迷惑を掛けてすまないね。美緒を迎えに来たんだ」

「はい、晃から聞いていますよ。本宮さんが迎えに来てくれるって」

 にこにこと笑顔で話す彼女は、社交的だ。控えめで大人しい美緒とは対照的で天真爛漫で明るい。

「でも、本宮さんが迎えに来てくれてよかったです。だって美緒先輩ったら…」

「萌、余計なことは言うな」

 無邪気に話す彼女に彼がぴしゃりと言った。余程俺のことが気に入らないらしい。もっとも、彼にとっては、美緒に言い寄る男全てが気に入らないのだろうけれど。
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