この恋、永遠に。
 ああ、そういうことか。昨夜は酔っ払って寝てしまったところを柊二さんが迎えに来てくれた。そのときに彼らと会っていたのだった。

「はい。萌ちゃんたちに聞いたんですね」

「そう。彼女に俺も一緒に来てくれと誘われたよ」

「え?」

 驚いた私は足を止め、柊二さんを見上げた。彼と目が合うと彼はいたずらっぽく笑った。

「俺と一緒は嫌?」

 そんなこと、本当は聞かなくても分かっているくせに。柊二さんと一緒で嫌なはずがない。
 だけど……だけど、ちょっと待って。浮かれていて今まで失念していたけれど、柊二さんの前では私は学生ということになっている。自分でそう名乗ったわけではないけれど、学生かと聞かれたとき、私は否定しなかった。私は彼を騙している……。

 そして、双子はその事を知らない。彼らが接触したら私の嘘が明るみになるのも時間の問題だ。
 柊二さんを騙したくはない。けれど私が柊二さんの会社の社員、それも資材部だと知られたらこの関係は終わってしまうだろう。
 こんなにも好きになってしまったのに、今、自分からそれを手放せる?
 彼といたい。彼の傍で彼の笑顔を見たい。彼の温もりを感じたい。

 柊二さんと一緒に双子の誕生日パーティーに出席できるのはすごく嬉しい。だって私はいつもあそこでは場違いな気がしていたから。萌ちゃんと晃くんのことは好きだし、誕生日もお祝いしたいけど、庶民な私には少し気後れしていたのも事実なのだ。柊二さんが隣にいてくれたら安心する。

 だけどその場で萌ちゃんか晃くんが私の会社のことを口にしたらどうなるの?私が柊二さんの会社の人間だということが彼にばれてしまうのだ。そうしたら、私は彼を失い……仕事も失う。私の嘘が彼にばれてしまった後も平気な顔をして出勤できるはずはない。彼と終わるということは、同時に職も失う。そういうことだ。
 どうしたらいいの……。

「美緒?」

 私の様子がおかしいことに気づいた柊二さんが、心配そうに私の名を呼んだ。

「……もしかしたら、彼らのパーティーには一人で行きたかった?」

「違います!」

「じゃあ何をそんなに悩んでいる?」

「………」

 答えられない。だって、何て言ったらいい?
 私は咄嗟に思いついた言い訳を口にしていた。

「しゅ、柊二さん……は、きっとお忙しいと思って……」

 柊二さんが片眉を上げた。きっとこれが本当の理由じゃないことくらい、彼は見抜いているはずだ。
 少しの沈黙がある。だけど柊二さんはそれ以上私を追及することはなかった。

「さっきも言ったけど、美緒との時間を作ることくらい出来るよ。だから美緒はそんな心配しなくていい。行こう。美緒に一番似合うドレスを選ばせてくれ」

 まるでこれは自分のためだというように、柊二さんは私を店内へと促した。
 いつかは分かってしまうことなのだ。それならば他の誰かから伝わるよりも、自分から告白したい。せめてそれぐらいは、彼に対して誠実でいたい。だけど、まだそれを伝える勇気がない。少し落ち着いたら。そうしたら。ちゃんと彼に話そう……。
 私は意を決して微笑むと、店内へと入っていった。

< 37 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop