この恋、永遠に。
「僕は美緒ちゃんを否定しているわけではないことを、まず言っておきたい。彼女は僕の大切な友人だと思っているし、彼女がとてもいい子であることはよく知っているつもりだ」

 俺は黙って頷き、先を促す。

「あの夜、バーでお前と話していて、入り口付近に美緒ちゃんがいることに気づいたんだ。彼女を見つけ、彼女たちの会話をそれとなく窺っていたとき、僕の問題を解決するのと、お前の問題を解決するちょうどいい案を思いついたんだ」

「問題?」

「そう」

 孝が笑顔で頷く。続きを話したくてたまらないのに、わざと俺に質問をさせもったいぶっている、そんな感じだ。

「俺は毎度のことながら、お祖母様に柊二への見合い話を持ちかけられ、それを断ることができないでいる。柊二も同じだろう?無下に出来ずに、不本意ながらも見合いを受け、適当な理由を考え断っている」

「……ああ」

「だから美緒ちゃんをお前の恋人にしたらどうかと思ったんだよ」

 孝の言う『問題』が何かは理解できた。だが、それがどうして美緒限定の話になるのかが分からない。あの時、孝は確かにあの中から恋人を選べばいいと言ったが、美緒にしろとは一言も言っていなかったはずだ。俺が美緒を選ばない可能性だってあったのだ。

「あの時、俺が美緒を選んだのは偶然だ。俺が美緒以外の女を選んでいたらどうなっていた?」

 俺の質問に、孝は笑って首を振る。

「いや、お前は間違いなく彼女を選んでいたよ」

 孝の言い分に俺はいささか不機嫌になった。孝の中ではあの中で俺が美緒を選ぶことは決定事項だったらしい。そこまで見抜いた上で、けしかけたのだ。孝の意のままに操られた気分になった俺は面白くない。ソファーに深く背中を預けると、憮然とした態度で孝を見た。相変わらず俺の友人はそんなことは意にも介していないようだ。

「結果、うまくいっただろう?」

 悪意のない笑みを浮かべたままの友人に、俺は文句の一つでも言ってやりたい気分だ。まったく面白くない。

「後は美緒ちゃん次第かな。彼女がこの後どうするかにかかっているよね」

「美緒が俺から離れて行くと思っているのか?」

「いや…。とりあえず、僕が話せることは全部話したよ。後は美緒ちゃんとうまくやって欲しいな」

「言われなくてもそうするつもりだ」

 俺はソファから立ち上がると時間を確認した。

「仕事中に時間を取らせて悪かったな」

「全然。大事な友人のことだからね」

 肩を竦めて見せる孝に、俺は軽くお礼を言ってから応接室を出た。休日で人がいない受付を通り過ぎエレベーターに乗り込む。

 この時の俺は、孝の言っていた二つの問題は俊子さんが持ってくる見合いの件だけだと思っていた。


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