この恋、永遠に。
「た、高科さん……ここって……」

 会社からタクシーに乗せられて連れて来られたのは、私が想像していたような居酒屋ではなく、一流のコース料理を提供するフランス料理レストランだった。少なくとも会社の仲間と気軽に飲みに行くような店でないことは確かだ。カップルがちょっとお洒落をしてデートで行くような、そんな店である。

「渡辺さんは何を飲む?飲めるよね?」

 私の言わんとしていることはおそらく分かっているのだろうが、それには答えず、高科さんが飲み物を聞いてくる。
 まさかこんな店に連れてこられるとは思っていなかった。もともと強引に連れてこられたとはいえ、こんな店で高科さんと二人で食事なんてしていたら、誤解されて当然だ。柊二さんのことを思うと後ろめたさと居心地悪さで一杯になる。

「……ごめんなさい、私は飲めないのでペリエを…」

「え、そうなの?」

「はい、すみません」

 本当は飲めるけれど、今日はそんな気分じゃない。高科さんのことは尊敬しているし好きだけれど、騙された気分になる。
 やがて料理が運ばれてきた。高科さんは赤ワイン、私はペリエを飲みながら料理をいただく。確かに料理は美味しいけれど、私は彼の話に笑顔で相槌を打ちながら、早く食事を終わらせて帰ることばかりを考えていた。

「渡辺さんって…」

 最後のデザートになったとき、高科さんがナイフとフォークを持つ私の手元をじっと見つめた。

「こういうお店には慣れているの?」

「こういうお店?」

 私は首を傾げる。

「うん。ほら、ずっと見ていたけどマナーも完璧だったし。ナイフとフォークも使い慣れている感じだよね。こういったお店によく来るのかな、と思って。意外だな」

 その口元をふっと綻ばせて彼は笑った。
 最後の一言は余計ではないだろうか。

 でも、マナーが完璧だと言うのなら、それは柊二さんのおかげに他ならない。だって私は、初めて柊二さんとレストランで食事をしたときはオロオロするばかりだった。柊二さんは気にしないでいいと言ってくれたけれど、結局その後で私は彼に一通り教えてもらったのだ。
 柊二さんに教えてもらったことが、身についていて良かった。だって今日は、柊二さんと食事をしたときと違って、他の客から私たちを隠す壁も、観葉植物もないのだから。

「そんなことはないと思いますけど……、失礼がなかったのなら、良かったです」

 私が曖昧に微笑むと、高科さんは更に笑みを深めた。

「ますます気に入ったよ」

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