この恋、永遠に。
 私の心臓が鷲掴みされたような気がした。呼吸が苦しくなってくる。そんなはずはない。彼は私の恋人だ。そう思うのに負の感情に捉われて抜け出せなくなってしまう。
 私の恋人…。本当に?私はこんなに好きだけれど、そんな私だって柊二さんに黙っていることがある。柊二さんも同じかもしれない。

 思わぬ現場を目撃して少し興奮した様子の高科さんは、首を伸ばして顔を見ようとしている。だが、信号が青になったらしく、タクシーが走り出してしまった。柊二さんたちはこちらに背を向けたまま。隣の女性の顔を確認することはできなかった。

 あの女性は誰なの?柊二さんは私のことを恋人だと言ってくれた。けれど、思い返せば好きだとは言ってくれなかった。
 顔は見えなかったけれど、雰囲気で分かる。彼の隣に並んでも全く違和感がなかった。きっとあの女性は綺麗な人に違いない。少しでも彼につり合うようにと、高いヒールで誤魔化している私なんかが到底及ばないほどに。お願い、柊二さん……嘘だと言って―――。

 その後は高科さんと何を話したのか覚えていない。彼が柊二さんと一緒にいた女性についてあれこれ何か言っていた気がするけれど、私の耳には全く入ってこなかった。
 タクシーで自宅のアパートまで送ってもらったのは覚えている。けれど、少し前に見た、柊二さんに寄り添う女性の影がちらついて、何も手につかなかった。お風呂に入ったのか、いつ眠ったのかも、分からなかったほどに。



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