この恋、永遠に。
 高科さんが私が持っている書類をちらりと見る。

「はい。関根さんに頼まれまして」

「ふ~ん。そんなの関根さんが自分で持ってこればいいのにね」

「いえ、そんなことは……」

 いくら関根さんが申請するものだとしても、目上の人に頼まれたものを断れるはずもない。決済箱に入れるだけの簡単なお使いだから、帰るついでに総務に寄ることくらい、何てこともなかった。

「あの…、高科さん?」

「何?」

 そこを通らせて欲しい、の一言が言えない。さっさとこの書類を総務に出して帰りたいのに、高科さんがドアの前に立ちふさがったままで、中に入る事が出来ない。何故、そこに立ったままなのだろう?

 この前の夜に高科さんに強引に食事に誘われて以来、私は彼のことが少し苦手になった。今でも彼は、社内で気さくに話しかけてくれる唯一の人なのだけれど、はっきり断ることが苦手な私は、強引に出られると今度も断れるか自信がなかったからだ。こんな自分が嫌になる。これじゃあただの八方美人だ。
 柊二さんという恋人がいるのに、他の男の人にほいほいついていくような真似はしたくない。……今でも彼がそう思ってくれているかどうかは、自信がないけれど。

「これを総務に届けないといけないので……」

 ああもう!そこを通らせてもらえませんか?そのたった一言がなぜ言えないの?
 私は手にした書類を掲げた。高科さんはそれをちらりと見てから頬を緩ませる。

「渡辺さん、今夜は予定ある?」

 高科さんの誘いに、私はびくりと全身を強張らせた。今度こそ断らなければ。

「い、いえ…ごめんなさい。今日は忙しくて」

「忙しい?本当に?断る口実を探しているだけじゃない?」

 今日の高科さんはこの前よりも更に強引だ。私の手首を掴むと私を引き寄せようとする。

「……やっ、……本当です。は、離してください」

 総務のドアの真ん前であまり大きな声は出したくない。私は小さな声で精一杯拒絶した。
 だが、営業部のエースで毎日言葉巧みにクライアントを相手にしている彼には、私は赤子のようなものなのかもしれない。一向に引き下がる様子がない。

「渡辺さんがOKしてくれたら離すよ」

「そんな。……どうして私なんですか?営業には斉藤さんとか、他にも綺麗な方はいっぱいいるじゃないですか」

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