この恋、永遠に。
「えっ?あっ…!」

 見れば晃くんが持っていたグラスが傾き、ビールが零れてしまっていた。
 萌ちゃんが、向かいに座る晃くんが零したビールを慌てておしぼりで拭き始める。

 私も急いで濡れたものを避難させると、自分のおしぼりを取ってテーブルを拭いた。
 零れたビールはテーブルと、晃くんのジーンズを少し濡らしてしまっている。

「晃くん、膝のところも少し濡れちゃってるからこれで拭いて?」

「あ、うん…ありがとう」

 私が新しいおしぼりを差し出すと、晃くんはそれを受け取ってジーンズを拭き始めた。

「ほんっと、晃って美緒先輩には素直よねぇ~」

「…何が言いたいんだよ」

 さっきの喧嘩が尾を引いているのか、晃くんは未だ喧嘩腰だ。
 そんな晃くんに萌ちゃんは意地悪そうな視線を向けながら、「別にぃ~?」とはぐらかし自分のカクテルに添えられたフルーツをいじっている。それ以上追求する気はないらしい。

「でも、美緒先輩なら分かるなぁ~」

 カクテルを一口飲んだ萌ちゃんが、テーブルの上で両肘をつき手を組むと、その上に細い顎をちょこんと乗せて笑った。

 何が分かるの?唐突な話に意味が分からない。
 だが、首を傾げる私に、萌ちゃんは構うことなく続けた。

「だって、美緒先輩って可愛いだけじゃなくて、しっかりしてるじゃない?一見おっとりしてるようなのに、あの本宮グループにあっさり就職決めちゃうし。美緒先輩の会社、私の従姉妹も受けたんだけど、二次面接にすら行けなかったって泣いてたもん。凄い美人で勉強も出来る人なのに」

 そう言って萌ちゃんは可愛い目を細めて笑った。

「美緒先輩のことはずっと好きだったけど、それがあって益々尊敬しちゃって」

 彼女の告白を聞きながら私の背中に大量の汗が流れていたことなど、誰も知らないだろう。
 確かに私は彼女が言った通り、日本有数の大企業である、本宮グループの総本山、本宮商事に勤めている。
 それだけ聞くと誰もが羨望の念を抱くだろうが、私の場合は少し違った。

 大学も三回生ともなると皆少しずつ就職活動を始める。私もみんなと同じように何となくやってはいたが、箸にも棒にもかからず…、四回生になって卒業も間近となり、気付けば就職先が決まっていないのは私だけ…という状況に。
 嘆いた両親が古い友人に頼み込んで決まった就職先が本宮商事だったのだ。

 信じられない話だ。まさか自分があの本宮商事の社員だなんて。コネ入社とはいえ、浮かれる気分のまま迎えた入社式。そこまでは良かった。
 が、実際に配属されたのは資材部。
 入社したての新人だった私は後から知ることになったのだが、そこは社内では別名で呼ばれていた。『リストラ部』。使えない人間を辞めさせる為に用意されている部署なんだとか。
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