この恋、永遠に。
 柊二さんが俯いた私の頬を両手で挟むと、軽く持ち上げた。彼にされるがまま、顔を上げた私の視界に入ったのは、切なそうに微笑む彼の顔。その瞳に怒りや責めの色は見られない。
 私は戸惑った。彼は、本当に怒っていないというのだろうか?
 そして、次に柊二さんの口から漏れた言葉に、私は驚いて目を見開いた。

「…悪かった」

 彼の口から出たのは謝罪の言葉だった。そのまま彼は私をそっと抱き寄せると、その広い胸に私の顔を押し付けるようにして包み込んだ。
 悪かった?何が?柊二さんは何も悪くない。悪いのは私だ。それなのに、どうして彼は私に謝るの?

 私は柊二さんに抱きしめられたまま、彼の筋肉質な胸板に両手を滑らせほんの僅か押してみる。
 腕の中で感じた微かな抵抗に、柊二さんはその力を緩めると私を見下ろした。
 彼の瞳が揺れている。私も、きっと同じだ。

「どうして柊二さんが謝るんですか……謝るのは私の方なのに」

「美緒……」

「私が、柊二さんに本当のことをなかなか言い出せなくて。騙すつもりじゃなかったとしても、結果的に騙していたのは本当で……だから………ごめんなさいを言うのは私です。柊二さんじゃないです…」

 視界が滲んできた。泣くなんてずるい。そう思うのに、緩む涙腺をどうすることもできない。
 私は零れる涙を誤魔化すように、柊二さんの胸に両手を添えたまま、再び俯いた。

「怖かったんです。バーで初めて会った夜、私、すぐに柊二さんに気づきました。会社の専務だってこと、知ってました。私はもう知ってのとおり、新卒で資材部に配属された人間ですから…だから柊二さんが私を誘ったのは、そのことで何か言われるんだと思ってました」

 彼は身じろぎ一つしない。黙って私の話を聞いている。

「でも、その後で柊二さんに学生かって聞かれて、そうじゃないことが分かりました。資材部に所属する社員だなんて言えなくて……私、きっとその時、ずるいことを考えたんです。このまま学生の振りをしていれば、柊二さんにまた会えるかもしれない、って。ほんの一時でも夢を見たかったんだと思います。本当に…ごめんなさい………」

 俯いたまま頭を下げると、我慢していた涙がぽたりと落ちた。
 すると、柊二さんのたくましい腕が再び伸びてきて、再び私を包み込んだ。抱き寄せたまま、頭を優しく撫でられる。

「美緒、ごめん。俺が勘違いしたせいで君を悩ませてしまった」

 私は彼の腕の中でふるふると頭を左右に振った。彼が謝る理由はどこにもない。

「実は俺が美緒を誘ったのには、理由があるんだ」

 私を抱き寄せたまま、彼がゆっくりと話し始める。

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