俺様社長と秘密の契約
応接室の前、竹田はいつも俺を置いて部屋を後にする。神宮寺善一郎は、俺を息子のように可愛がってるから、邪魔はしたくないと、竹田なりの考えだった。

…トントン、ドアをノックする。

「…龍吾、来たのか?」
「…はい、入っても宜しいですか?」

「当たり前だ、早く入りなさい」
「…失礼します」

先に入った俺は、続いて理子に中に入るよう促す。

「こんなに老いぼれたジジイに会いに来てくれるのは、もう龍吾くらいのものだ」

そう言って窓の方からこちらに向き直った善一郎は、俺の横にいる理子を見て、困惑の表情をした。

「…こちらの女性に見憶えはありますか?」
俺の言葉に何も答えず、善一郎は理子の前に車椅子で近づいて来た。
そして…

「…真理に、瓜二つだな」
そう言って、涙ぐんだ。

「…どうして、母の名前を⁈」
理子は母親の名前を言った善一郎が、不思議でならない。2人は初対面のはずだから。

「…真理は、私のたった一人の娘だ。
真理は、二十歳の成人の日に、お前の父、理人と家を出て行った…私が結婚を反対しなければ、出て行くことなど無かったのにな」

そう言った善一郎は、悲しげにほほ笑んだ。
理子は、自分の母の事をなに一つ知らなかった。理子を産んで直ぐに亡くなってしまったからだ。

…男手一つ、理子を育ててくれた理人も、理子が高1の時、仕事の事故で亡くなっていた。理子に残ったのは、莫大な遺産だった。
しかし、その遺産は、善一郎が用意した金だった。毎日の生活で一杯一杯だった理人に、保険に入る余裕も無かった。

両親を亡くした理子が善一郎は不憫で、こっそり親が貯めた金だと、弁護士を使って、理子に手渡したのだ。

そのおかげで、理子は無事に高校を卒業し、頭の良かった理子は、一流大学も卒業でき、うちの会社に就職した。

その事を知っているのは、善一郎、竹田、俺の3人だけ。
< 64 / 155 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop