大切なものはつくらないって言っていたくせに
なぜ祐樹は彼女に会いたいのか?
祐樹が、俺のスタジオにフラリとやってきたのは、二か月前。
夜の21時頃だったと思う。 
従業員も帰り、俺一人でパソコンに向かって残りの雑務をしていた時だった。

祐樹が行方不明になったというニュースから三年経っていた。
さすがの芸能界通の俺でも、祐樹の居所は掴めなかった。
失踪って一体何があったんだよ。

伸びきったぼさぼさの髪に、無精ひげ、ワークブーツにミリタリージャケット。
ワイルドさも加わって、あの強い視線はさらに研ぎ澄まされたように俺の顔を射る。

「やあ、祐樹。今度は戦場カメラマンかなんかの役でもやるの?」
俺は、驚きもせず第一声でそう返した。

祐樹は、いつもの右の口角をあげて皮肉めいた笑顔を見せて
「おまえは、さすがだな。」

でも、俺は祐樹が少し足を引きずって歩く姿を見て、さすがに口を閉ざした。

祐樹は、それに感づいたのかこう言った。
「あの事故でね。少し足がこうなった。」
祐樹は遠慮せずに昔のようにコルビジェの黒のソファに、ドカッと腰をおろす。

「なにしに来た?」
俺は急に怒りがこみあげてきた。
俺が、どんだけ心配してお前を探し回ったかわかってるのか?
忽然といなくなって、どんだけ周りに迷惑をかけたかわかってるのか?

「ごめん。」
祐樹は、その俺の気持ちも察してかそう言う。

俺は、無言でPCの電源を落とす。
「腹へってる?」

「ああ。」

「じゃあ、行こうか。」
俺は、祐樹といつもお忍びで使っていた店にすぐ電話をして部屋を取る。





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