大切なものはつくらないって言っていたくせに
遥とこんな風に口喧嘩するとは思わなかった。
というか、なんで俺はこんなに激昂しているんだ?
あいつがどうしようが俺には関係ないだろ?

俺は、怒りがおさまらず、そのまま2人ぶんの会計を済まして、勝手にしろと心の中で呟いて、遥を置いてバーを出た。

そんな男はやめて、俺のところへ来い。

そう言って、何もかも奪いたかった。
何を言ったって、おそらくあいつには伝わらない。
外を出ると、生暖かい夏の空気が俺の身体を包んだ。

その時、このイタリアでの撮影が終わったら、やっぱりここを引き払うべきだと考えた。
そうやって、向き合うべきことには逃げるしか方法がなかった。
当時の俺はそれでいっぱいいっぱいだった。

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