大切なものはつくらないって言っていたくせに
大スクープに世間は大騒ぎ
あるスクープが日本中に駆け抜けたのは、額賀龍一が私の前に現れてから、2週間くらいたってからのことだろうか?


3年前、映画の撮影中、冬山の事故で大怪我をした瀬田祐樹。怪我の状態など詳細は事務所が一切の情報をシャットダウンし、真実はわからないまま、いろんな噂が飛び交った。
事故のショックで記憶喪失になったとか、もう復帰は難しいくらいに顔にダメージを負ったとか。
そんな憶測の中でしばらくして入院先の病院から忽然と姿を消したと事務所から発表があり、失踪届けが出されるまでの大事件となった。

そんな瀬田祐樹がとうとう現れたと。
先週ある文学賞の受賞者として発表された笹川祐二という作家の正体が、実は瀬田祐樹だったという衝撃的なニュースだ。

連日、ワイドショーではその話題ばかり。
街を歩いていたって、誰もが「瀬田祐樹が・・・」と噂をしているのを耳にする。

報道陣に囲まれて、カメラのフラッシュを浴びている彼の横顔をテレビで見た。
ほとんど取材陣の質問には答えずに無言で車に乗り込む彼は、髪の毛も伸び放題で無精ひげをはやし、昔の爽やかなイケメン俳優とは程遠い姿だった。

どこかの芸術家みたい。
でも、あの力強い目つきだけは、変わっていない。

私は、唖然としてそのニュースのテレビの前で立ち尽くす。


既にいくつかの文学作品は笹川祐二の名前で発表されていて、今、ものすごい勢いでその受賞した作品の新刊予約が殺到しているんだそう。
前代未聞の初版数になるかもしれないとコメンテーターが興奮してそんなことを言っているのも、私の耳にはどこかもっと遠くで響いているように聞こえた。


< 4 / 105 >

この作品をシェア

pagetop