夏の日

別れ

「いい旦那でとても幸せ。実家は四国の徳島で
長男が後をついで、お父さんは3年前に亡くなって、
お母さんは親戚の多い四国のほうが断然いいって」

「こっちの若夫婦はほったらかし」
「私とお母さんとおばあちゃんの思いのまま」
「そういうことか。分かった安心したよ。
そろそろ行かなくちゃ」

「勝彦さんとこ?」
「そう、勝彦とあって食事して、夜行バスで帰ります」
「じゃ、子供たちと送っていくわ」

「そうね、そうしてあげてあのバス停まで。
北柏駅のほうが近いわよ」
「柏駅からバスでキャタピラー三菱で降りて、
あの炎天下を歩いてきたんだって」

「ええっ!あの40度の真昼間に?暑かったでしょう。
今はもう涼しくなってるわ」
「そうね」
「じゃあ行ってくる。直人、亮太!いらっしゃい!
おじいちゃん送っていくから」

二人の子供たちは「ハーイ」と後を駆けて来る。
君子とはこれが最後になるかもしれない。
ふとそんな気がした。もうここにくることもあるまい。

それはもう余計なことだ。そんな気持ちで君子を見つめた。
「さようなら」
「おげんきで」

扉がしまり階段を下りる。
子供たちが駆け回っておってくる。孫だ。
「すぐわかった?」
「ああすぐに分かった。ちゃんといるかネットと書いてあったから」

「暑かったでしょう?」
「ああ、半端じゃないなこの暑さは。ちゃんと部屋を確かめてから
スーパーで一休みして電話した」

「おとうさんらしいね」
「そしたらすぐにお母さんが出て。とにかく暑くて夜行バスで
睡眠不足で行き倒れしそうだった」

「むりしないで。昔とは違うんだから」
「ああ、わかってる。皆元気そうだ?」
「お母さん、おばあちゃん。もう元気元気!」

バス停に着いた。孫達は走り回っている。
バスが来た。
「あのバスで終点だから」
「ああわかった」
「直人、亮太!おじいちゃんバスに乗るから」

子供たちがハーイと言ってまとわり付いてきた。
若林が知見と孫達に見送られてバスに乗る。
「じゃあな、バイバイ」
「バイバーイ!」
子供たちが手を振る。
バスが動き出した。

知見も手を振る。
孫がバスを追ってくる。
「バイバイ、おじいちゃん、またきてね!」
「ああ」

バスの速度が速くなり、皆立ち止まって手を振った。
若林も思いっきりの笑顔で手を振った。
しっかりと孫と知見の顔を確かめながら・・・・。

                      −完−
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