夏の日

義姉

君子の部屋は大きなベッドがどーんとあって、
サイドテーブルにノートパソコンが置いてある。

「パパの実家は徳島で長男が跡を継いでて次男の
パパはもう自由。もう見放されてるって感じ」

君子はパソコンを起動する。
「ほらでたわよ。知見はホームページ製作の会社を
立ち上げて、全部自分でやっちゃうのよ」

「おっ。ほんとだ、すごいな!」
テーブルの脇に輝美姉さんの写真が飾ってある。
「あ、これは?」

「そうそう去年の秋に輝美姉さん亡くなったの乳癌で」
「乳がん?」
「それもほんとは初期で簡単な手術のはずだったのに・・」
君子は涙ぐんだ。

「手術ミス?」
「そう。国立がんセンターだったんだけど・・・病院側が
素直にミスを認めて。義兄さんも親戚も相当悩んだんだけど。
和議して訴訟は起こさなかったの」

「ふーん。辛かっただろうな」
若林はひざまずいてお題目を三唱した。
座りなおして、

「一緒にフィリッピンのサンタローサに行ったよね」
「そう、クモヒトデがいて息子の学が泣いて、
知見がきょとんとしてた」

「雨上がりに、蛍が綺麗だったね」
「ハンモックからずり落ちて」
「夕食の後のダンスで俺だけ皆と合わなくて」

「それが又姉さん翌日キャピキャピの超ビキニ!」
「サイズ合わなくてはみ出てた」
「そう、相当思い切ったのよ。はじめは泳ぐ気も無くて
借りた水着は合わなくて。あの頃が一番楽しかったみたい」

「そうだよな。買い物しててフライトに乗り遅れそうになった」
「あなたが悪いのよ」
「税関でリュック一杯のポカシェル、全部庭にまくんだと
言ってひやひや物だった」

「お姉さんもやきもきしてたわよ。大変な旦那さんねって」
「ははは、天国でも怒られそうだな・・・・
あの輝美姉さんが手術ミスか、残念だなあ」
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