鬼部長と偽装恋愛はじめました
ふたりの様子からして、あまりいい話ではないみたい。

きっと、ニューヨークに祐平を連れ戻す話だ。

祐平は香坂さんの向かいに座ると、私を隣に座らせて話を切り出した。

「香坂、悪いけどオレは、ニューヨークには行かない。諦めてくれないか?」

やっぱり、ニューヨークの話なんだ……。

それにしても、香坂さんはなんでニューヨークにこだわってるんだろう。

そもそも会社が違うし、いくら祐平がエリート部長だといっても、会社の人事が思い通りにいくはずない。

ほとんど意味が理解できず聞いていると、香坂さんが強い口調で言った。

「なんで? だって、ニューヨークにいた頃は、いつかはフリーで働きたいって言ってたじゃない」

「えっ! フリー⁉︎」

思わず声が出て、慌てて手で口を覆う。

そんな私を、一瞥した香坂さんが言った。

「そうなんです。祐平は、とてもプレゼン能力が高くて語学も堪能。今はメーカー勤務の一社員ですけど、フリーで働けるだけの力があるんです」

それには、私も異論はない。

ニューヨークにいた頃から、営業成績の良さが抜群なのは有名だった。

だから、若くして部長になっているわけだし……。
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