年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
気配が変わった瞬間から、俺、から、僕、に戻っていた。

話し方も纏う空気も、さっきまでの辻井さんを見ていなかったら、まったく違和感のない穏やかさ。息をするように自然に、丁寧な自分を演じている。


「しんどくないんですか?」


そう思わず呟いてしまった。


「はい?」

「そうやってずっと演技してて」


意外なことを言われたかのように、軽く目を瞠ってから、穏やかに言った。


「もう演技してる意識もありませんが。……きっとしんどいから、三年もあの子のことを縛り付けてるんでしょうね」


ふ、と笑う笑顔は、いつものあの柔らかなもの。


「片桐さんはどうか後悔しないように。納得出来る選択をしてください」
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