恋する白虎
窮奇は遠眼で先程の様子を見ながらフッと笑った。

窮奇は、邪悪な魂が大好物であった。

……あの、性悪女、美味そうだな。

それにしても。

窮奇は、あの日、杏樹と空を翔けたひとときが忘れられないでいた。

自分と杏樹の二人だけの会話に、二人だけの時間。

窮奇はいつもの屋根の上で思った。

杏樹を、自分のものにしてーな。

あと数日で地底へ帰る門が閉まる。

それまでに帰らないと、窮奇に命はない。

地底の煉獄の岩山でなければ、窮奇は生きてはいけないのだ。

それが窮奇という生き物だ。

「あの女を、連れて帰りてぇな」

窮奇は口に出して言った。

杏樹と一緒に、地底の岩山に帰りたい。

そうだ、連れて行こう。

むりやりでも。

たとえば……騙してでも。

窮奇はニヤリと笑った。
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