初恋
わたしも急いで後を追うと、
りゅうさんが台所から直ちゃんに声をかけた。

「今日はなあ、みーちゃんも手伝ってんで。
今の気分にぴったりの恐ろしさやろ。」なんて言う。

「ほんまに?それは楽しみやなあ。」と、直ちゃんも少し楽しげな声になる。

ずいぶんな言われようだけど、それでも空気が少し軽くなったのはよかった。

二人で丹精込めて作ったつもりだけど、
直ちゃんは食べても何も言わなかった。

時々ぼんやりしながら、機械的に口に運んで、黙々とそれを消化していくという感じの食べ方だった。

テレビの音だけが流れる室内で、時間はゆっくり流れる。

ふと、直ちゃんが顔を上げて、

「そういえばみーちゃん、なんでここにおるん?」と聞いてきた。

そう言われればそうだ。

「あ、ごめん。あかんかったかな。ごめんね。りゅうさんに呼んでもらって…。」とあせりながら答えると、

「いや、そういう意味じゃないねん。
ただ、おれ、今日はみっともない人間やと思うから…。」と辛そうに笑う。

「いつもはまともなつもりか。」と言ったのが誰か、いちいち言わなくてもいいだろう。

「お前よりはよっぽどな。」と、直ちゃんもつっこみだけは反射的にでるらしい。

それから、「うまいな、これ。」と、今日初めてカレーを口にしたみたいに直ちゃんが言った。

「そうやろ。二人分の愛情がこもってるからな。」

「一人分差し引いたらもっとうまいやろな。」

「みーちゃんに失礼やで。」

「あほは自覚がないのが困るな。」

わたしが笑って、直ちゃんも笑って、

「あかん。せっかくゆっくり泣こうと思ってたのに、
お前がおると台無しやな。」と言った。

「泣いたらええで。」とりゅうさんが言うと、

「あほ。」と言ってから少し黙ってから
目を手の甲でぐいとこすって、「笑いすぎで泣けてくるわ。」と言った。

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