初恋
「どうせ話すつもりでつれて来たんやろ。
いつまでええ格好してるつもりや。」

りゅうさんはすました顔で、直ちゃんにもごはんの入ったお茶碗を渡す。

「それは言わんでええやろ。」と言う直ちゃんの前にあるお茶碗は、
青い格子模様のもので、わたしの前にあるものとおそろいのデザインだ。

わたしのはくすんだピンクで、やや小ぶりである。
明らかに女性用のものだ。

そして、そのデザインの意味するところが、にぶいわたしにでもわかった。

三浦くん、すごい遊んでるって。
今日聞いた言葉がよみがえる。

遊びの相手なの?ううん。そんなわけはない。
そうだったらこんな顔をするわけがない。

直ちゃんはぐっと唇をかんで下を向いて、泣きそうな顔になっている。

「彼女の?」と聞くと、直ちゃんは目を伏せて、小さい声で、「うん。」と言って、
それから、「おれはそのつもり。」と付け加えた。

「じゃあ、わたしが使うの、悪いわ。」と、
明るく言ったつもりだったが、ちゃんとそう聞こえたかは自信がない。

むしろ、使いたくない、って気持ちが伝わったんだろう。

「ほんならこっち使い。」とりゅうさんが自分用らしい、
猫の模様の大きなお茶碗と交換してくれた。

「あ、でも。」

いやじゃないかな。自分の彼女のを他の男の人が使うの。

そう思ったのを、見透かしたようにりゅうさんが言った。

「ええねん。親子やから。な、なおタン。」
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