センブンノサン[完]

「……今も痛いの?」

「ふ、まさか。見てる方は痛いかもだけどな」

そう笑って、彼は胸元にいる私の頭を優しく撫でた。


……ねえ、千堂君、やっぱり、

本当のことを言っても仕方ないとあなたは言ってたけど、そんなに悪い気もしないでしょう? 自分を知ってもらうということは。

できればその相手は、
あなたを深く知る相手は、
私であってほしいの。

だから、できるだけ分かりやすく伝えてね。

私は思ったより鈍感らしいから。

……ふと、あなたを知る前の会話が蘇る。

『千堂君! また適当言って女の子ふったでしょ!』

『え、なんでそのこと知ってんの』

『朝からその女の子から強烈な宣戦布告をされたんだよ!』

『あーまじか、それは悪かったな』

……なんでかな、あの時は嘘つきなあなたが大嫌いだったのに、今はあの時のあなたさえ愛しい。

あれは、嘘じゃなかったんだね、千堂君。

気づけなくて、ごめんね。

そう謝ると、彼は許さないと言って、私をぎゅっと抱きしめた。

言葉と行動がちぐはぐだよ、千堂君。

この先もこんな彼に翻弄され続けて行くのかと思うと、正直身がもつか心配だ。

それでもやっぱりあまり悪い気はしなくて、私も彼の背中に腕を回した。

しばらくして、彼の涙で自分の肩が濡れていることに気づいて、私は、彼の背中を優しく摩った。

「好きだよ、玉野……」

涙で震えた声で噛みしめるように彼が呟くから、私もつい、もらい泣きをしてしまった。

自分も泣いているのに私の涙をすぐに拭う彼が、

あまりに愛しくて言葉にならなかったので、

私も好きだよ、という思いを腕に込めて、彼を力いっぱい抱きしめたのだ。


end
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