私の師匠は沖田総司です【下】
髪を引っ張られ、艶子さんの前まで連れて行かれる。

後ろから腕を掴まれて、逃げることも抵抗することもできない。

「なんや、蒼蝶さんやないか。こんな夜中にどうしたん?」

艶子さんが口元に笑みを浮かべながら私の頬に触れる。

彼女の冷たい指先が顔の輪郭ををなぞるように触れるたびに、恐怖が身体を突き抜けた。

「艶子さん、どうして……?」

震える声で問うと、艶子さんはクッと笑った。

「どうしても何も、ウチは間者目的で新選組の女中になったんよ」

「そんな……、私たちを騙してたんですか?」

「そうや」

ハッキリと告げられた言葉に胸が抉られるように痛み、瞼が熱くなって涙が溢れそうになる。

艶子さんにも周りにいる人にも涙を見られたくなくて、顔を伏せた。

でもすぐに艶子さんに顎を掴まれ、顔を上に向けられる。

「ふふふ、その苦痛に歪む顔ゾクゾクするなぁ」

バシッと容赦なく掌で頬を打たれる。

口の中が切れたのか口いっぱいに鉄の味が広がった。

頬に残る焼ける痛みと胸の痛みで我慢できなかった涙が頬を伝う。

そんな私を見て艶子さんは益々笑みを深めた。
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