初春にて。
「本当は、俺だって、ちゃんとプロポーズしたいし、結婚式だって、きちんと挙げてやりたい」
 彼の口から滑り落ちた言葉が、あまりに意外で今度は私が瞠目する。
「ユズに綺麗なドレスの一つや二つ、着せたげたい、思ってる。……けど、今の俺には、物理的に無理やし」
 バイトする暇もないほど研究に没頭する彼との同棲を決めた時から、金銭面も含めて生活を支えようと決めたのは、紛れもない私自身だ。彼と同じ院生の中には、さっさと結婚して、年収の低い彼女の扶養家族になることで学費の免除や奨励金、助成金をせしめる強者も居ると聞く。だけどそれは、彼の性格には馴染まない。基本、不器用で生真面目な人だから、実際、そういうルールの隙を付くようなやり方はちょっと狡くて嫌かな、と言っていた。
「俺、ユズの事、不幸にしてんのとちゃうかな、って」
「それは絶対ないよ、安心して」
 とにかく私は、彼の話を受け止めることに徹した。今まで溜めに溜めこんだ物を、吐き出させてあげたい、何もかも。
 そう思いながら私は、彼の広い背をひたすら撫で続けた。
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