「恋って、認めて。先生」

 無言で、しかもあまりに長く見つめてくるので、耐えられず私は尋ねた。

「やっぱり変だよね。こんな格好、学校ではしないし……」
「ううん。変じゃない」

 しばらくの沈黙の後、比奈守君ははっきり言った。

「可愛い。何て言えばいいか、分からなくなるくらい」
「本当?気とか遣ってない?」
「俺にそういう要素ゼロってこと、飛星が一番よく分かってるでしょ?」
「っ……?」

 そっぽを向き、比奈守君は私の頭をワシャワシャと撫でる。こんな撫で方もするんだ。

 彼の評価を気にして落ちていた気持ちが、一気に浮上する。

「夕がそう言うなら、信じるよ」

 自分が二十代で彼より歳上だということは、今でもやっぱり心のどこかで気になってしまうけど、比奈守君が褒めてくれると、私はいつまでも女でいることを許されるような気がして、幸せだった。

「荷物貸して?」
「えっ?でも……」

 けっこう重いのに、比奈守君は軽々と私の荷物を持ってくれた。でも、いいのかな?私のよりだいぶコンパクトにまとめてるけど、比奈守君にも自分の荷物があるのに。

「自分のは自分で持つよ」
「ここからバス乗ってけっこう歩くけど、本当に大丈夫?」

 比奈守君は意地悪な目をして私を見る。もう、その手には乗らないんだから!

「大丈夫!歩くことも考えて荷物まとめてきたからっ」
「そのわりにけっこうズッシリしてるけど。何持ってきたの?」
「色々だよ、色々っ」

 一泊分の着替えだけ持って来ればいいと比奈守君は言ったけど、そういうわけにはいかない。旅とあらばメイク道具だっているし、基礎化粧品やシャンプーも、旅館のものが合わない場合は自分のを使いたい。

「シャンプーとか化粧品とか、いつも家で使ってる物の方が落ち着くし」
「そうなんだ。女の人って、大変だね」

 そう言い、比奈守君は不思議そうに目を丸める。

「今まで、彼女と旅行とかしたことないの?」

 無意識のうちに、私はそんなことを訊いてしまっていた。

< 121 / 233 >

この作品をシェア

pagetop