「恋って、認めて。先生」

 この指輪との出会いに、運命的なものを感じた。

 イミテーションで、一般的には価値がない物かもしれない。たとえ質屋に持って行っても、買い取ってもらえないだろう。

 それでも、シトリンを模したこの石は、私にとって大きな意味のある、大切な宝物になった。


 それからもうしばらく祭を楽しんだ後、私達は旅館に戻った。

 和室の部屋は、二人分にしてはけっこう広く、開放感があった。しかも、部屋の外には二人で使える温泉まであった。比奈守君は、無理してこんないい部屋を探してくれたのかもしれない。

「すごい!友達ともこんな部屋泊まったことないよ〜!ありがとね」

 はしゃぐ私を満足げに見つめ、比奈守君は微笑する。

「喜んでもらえて嬉しい。来年の夏も来よ?」
「うん!」

 そうだね。来年からは堂々と、地元の駅から手をつないで旅行したい。


 比奈守君の手を取り、部屋の窓から旅館の外の景色を眺めていると、

「さっきはごめん……」

 なぜか比奈守君に謝られた。

「ん?何のこと?」

 目を丸め比奈守君の横顔を見つめると、彼は困ったように笑って、つぶやいた。

「俺ばっかり飛星のこと好きで負けた気分になるって言ったこと、ごめん。好きな気持ちに勝ち負けなんてないのに……」
「ううん、もういいよ。私も変に大人ぶって良くなかったから」

 もう、無理はしない。ありのままの自分で比奈守君に接するんだ。

「飛星を好きになって、良かった」

 比奈守君は言い、私の肩を抱き寄せる。その声音は、初対面の頃では考えられないほど柔らかかった。

「私も、夕を好きになって良かった。もう二度と恋なんてしないって思ってたけど……。ひとりでいた時間全部、夕に出会うためにあったんじゃないかって、今は思うよ」
「嬉しいけど、改まってそういうこと言われると照れる」

 比奈守君を見つめると、彼は勢い良く目をそらし、話題を変えた。

「そういえば……。8月の夏期講習、飛星は現代文担当なんだよね?」
「うん、一応は」

 南高校では、毎年8月、受験を控えた3年生のために、2週間がかりで夏期講習を行っている。私も、今年初めて夏期講習の講義をすることが決まっており、そのことで人知れず緊張していた。

「でも、夏期講習に参加する生徒は年々少なくなってるみたい。夏休み前、ウチのクラスでも出欠の確認をしたけど、塾行ったり家庭教師にお願いするから学校の夏期講習には参加しないーって子ばかりだったし……」
「そうなんだ。まあ、俺も塾だけでいいかなと思ってたけど」
「だよね。いくら受験生とはいえ、学校の夏期講習にまで参加してたら息抜きするヒマがなくなっちゃうもんね。追い込み過ぎも良くないと思う」
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