「恋って、認めて。先生」

 卒業式が行われた日の夜。

 私は、アミさんが提案したパーティーに出席するため純菜や琉生とその会場に向かっていた。

 パーティーといってもおおげさなものではなく、友達だけを集めて開く慰安会のようなもの。

 高校教師として1年の務めを果たした永田先生や私のため、アミさんはこういう場を設けてくれたらしいけど、本当の目的は永田先生との時間を共有するためなんだろうなと思う。

 諦めたとは言っているけど、深く好きだった人を簡単に忘れられるわけがない。私はそっと、心の中でアミさんと永田先生がうまくいくことを願った。


 アミさん側の招待者には永田先生はもちろん、エモやエモの彼氏、アミさんや永田先生の友達も何人か来るそうだ。

 私も私で友達や彼氏を自由に連れてきていいと言われていたので、純菜や琉生と出向く一方、比奈守君とは会場で待ち合わせをしている。

「とうとう永田先生を見れるんだな〜おれっちも」
「琉生はまだ会ったことないもんね」

 すでに永田先生のことを知る純菜が、やんわりそう答えた。純菜に、私は尋ねる。

「遠藤さん、呼ばなくて良かったの?」
「うん、いいよ。あの人、こうやって皆でワイワイするの苦手みたいで」
「そっか……」
「大丈夫。今度の休みに会うから」

 そう言って笑う純菜の顔つきは、柔らかくて綺麗だった。


 大人向けの洋食屋で、パーティーは行われた。みんな気楽な格好で参加していたものの、最初、最年少の比奈守君は大人ばかりのメンツに緊張しているみたいだった。

 会場で比奈守君を見るなり、永田先生は言った。

「君、顔に似合わず緊張してるの?可愛いとこあるね」
「卒業したし、もう永田先生には会うことないと思ってました。何でいるんですか?」
「相変わらず可愛くないね、君は。僕も招待されてるの」

 真顔で冷静な比奈守君と、微笑した永田先生の間に静かな火花が散っている。慌てて止めようとしたけど、その必要はなかった。

「ウソウソ。憎ったらしいけど、ウチの学校で一番可愛い生徒だったよ、君は」

 永田先生は言い、比奈守君の頭をワシャワシャとなでる。

「卒業アンド恋愛解禁おめでとう!でも、将来高校教師になりたいなら、勉強も怠らないようにな?」
「わざわざ言われるまでもないですよ」
「その調子なら心配なさそうだな」

 苦笑し比奈守君に向かってひらひら手を振ると、永田先生は友達のところへ戻っていく。

「……俺も、生徒と向き合える教師になります。絶対に」

 比奈守君のつぶやきは、たまたま聞いてしまった私以外には聞こえていなかった。
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