魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 しばらく横になって体を休めてから立ち上がった。もう日が暮れかけている。いつものように石塀によじ登ったとき、「やー!」「あー!」というかけ声が聞こえてきた。石塀の上を四つん這いになって、声の聞こえてくる方に進んでいくと、村の中の空き地に勇飛くんと子どもたちの姿が見えた。

 勇飛くんの前に十人くらいの子どもが並んで、木刀を構えている。そして勇飛くんの合図にあわせて、「やー!」とかけ声も勇ましく、木刀を振る。勇飛くんの横顔もだけど、どの子の表情もみんな真剣だ。

 石塀に座ったままじっと見ていると、空がすっかり茜色になったころ、子どもたちはみな一様に正座をして、きちんと両手を土につけ、上体を前に傾けながら礼をした。その様子は神々しいとも言えるほどだ。最後に子どもたちは「ありがとうございました」と言って村のあちこちに散らばっていった。子どもたちを見送った勇飛くんが、ふとこっちを見て私に気づく。

「いつから見てたの?」
「んー、結構前」

 曖昧に笑うと、勇飛くんが照れ笑いを浮かべた。

「恥ずかしいな。師範でもないのに教えているところを見られた」
「あ、やっぱり子どもたちに剣道を教えてあげてたんだ」
「そう」
< 72 / 234 >

この作品をシェア

pagetop