魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 呪文を唱えて暖炉に残っている薪に火をつけた。炉棚の上に燭台を見つけて、それに暖炉の火を移す。明るくなった部屋を見回すと、家具は中央にある簡素な木の丸テーブルと椅子、それに窓際に置かれている同じく木のベッドだけという質素なものだった。

 ベッドに腰を下ろして一息つく。今日はいろいろなことがあった。ついさっき勇飛くんに頬にキスされたことを思い出す。あれは夕陽が見せてくれた幻想? それとも現実?

 そもそもこの世界自体が現実かどうか怪しいのだから、どこまでが本当の出来事なのかよくわからない。ため息をついてベッドに寝転んだ。マスター・クマゴンの小屋の藁のベッドとは違って、羽毛の詰められたふかふかのベッドだ。

「剣士と魔法使いってこうも待遇が違うんだ」

 剣士は他人――というより悪魔――の力など借りず、己の肉体と力で敵と戦うから尊敬されるのだろうか。

 そんなことを思いながらぼんやりしていると、マスター・クマゴンの怒鳴り声が聞こえてきた。

「セリ! 魔法で暖炉に火をつけて!」

 私は便利屋か。
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