カーテンを透過して部屋に射し込む暖かな優しい朝日が、夢と現実の間をさまよう意識を徐々に覚醒させていく。開けっ放しの窓からは爽やかなそよ風が吹いてカーテンを揺らし、気持ちの良い快晴の空を覗かせる。

 外からは道路を走る自動車の騒音や、学校へと向かう小学生達の元気な喋り声が聞こえてくる。そんな中、愛用している目覚まし時計のアラームが予定通りに作動して「ピピピピ」という機械音を辺りにうるさく響かせた。

 それを怡織(いしき)は、瞼を薄く開けて夢うつつのまま目覚まし時計に手を伸ばしアラームの電源を切った。

 このまま再び夢の中へ戻りたいと思ったが、その欲望を振り払って重い体を起き上がらせる。大きな口を開けて欠伸を一度やると、怡織はベッドから立ち上がって洗面所へと向かった。まだ足下がおぼつかず、壁に手を添えてよたよたと歩いていく。

 洗面所まで辿り着くと、目の前にある鏡には寝癖だらけの髪をかきながら目を細めているという、なんともだらしのない自分の姿が映っていた。怡織はそれを見て微笑しつつ、蛇口をひねって洗面器に頭を入れ、流れ出てくる冷水で髪を濡らした。今し方まであった眠気もそれで一気に消え失せる。
 
そのままの体勢で傍に掛けてあるタオルを手探りで取り、髪の水気を適当に拭うと、ふとすぐ近くにある小窓から空を仰いだ。ここ一週間ほど雨が続いていたが、久々に目にする雲一つない青空は見ているだけでも心地の良いものだ。

『怡織・・・・・・ありがとう』

 ふと怡織の中で、親友である秋那(あきな)が憂いを含んだ笑顔でそうつぶやく姿が回想された。

 秋那が怡織にそう言ったのは五年ほど前のこと。その日も今日のような天気だったのを覚えている。

「もうそんなに経つのか・・・・・・」

 今日までの月日は長いようであっという間だった。怡織は秋那のことを明確に覚えているのに、時間というものは容赦なく常に流れてしまう。だからこそ、今でもまだ現実を現実として認めたくないと怡織は思ってしまうことがある。当時の自分はこの未来を想像すらしていなかっただろう。

 秋那とはもう会うことのない、そんな未来を。





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