in theクローゼット
 篠塚が『これ』と言って取り出したのは、俺が昨日コンビニで選んだラッピングの箱で、中身はチョコレートだ。

 しかも、ハート型の。

 そして恐ろしいことに、そのチョコレートの製作者は俺――稲葉圭一だった。


「置いてくに決まってるだろ! 手伝いとか言って、騙しやがって。最初っから、そのつもりだったんだろ? こんなもん……青山に渡せるわけねぇだろうが!」


 最初は、篠塚の手伝いのつもりで作ったチョコレートだった。

 これだけ他のと違って俺一人に全部やらせるから、変だとは思ってたんだ。

 でも、まさかこんな無茶なことを言い出すとは思わなかった。

 俺がチョコレートを綺麗にラッピングし終えた時、篠塚はこれが青山へのチョコレートだと言った。

 そして、俺に明日渡せと。

 マジであり得ねぇ。

 どんな顔して渡せってんだ。

 三笠に玉砕してへこんでるだろうからって、優しくしてやるんじゃなかった。

 俺が青山へ渡すために作らされたチョコレートを持って帰れるわけがない。

 チョコレートを押しつける篠塚を振り切って、俺は家に走って帰った。

 俺がチョコを刻んで溶かして型に流して固めてデコレーションして箱に入れてラッピングして……

 こんなチョコレートを俺の手から青山に渡すだなんて、愛の告白じゃないか。
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