コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~


 俺は欠伸をしながら言った。

「今日は寝てなかったんだけど」

「うそ~。だって完全に頭が下を向いてたよ?」

 鞄を肩にかけながらそう彼女が笑うのに、俺は何かいいわけをしなくちゃならない気分になって、面倒臭さからあっさりと夕日のせいにすることにした。

「ほら、夕日が眩しすぎるから。この学校ちょっと厳しいよな、この眩しさ」

 ちょうど夕焼けの時間だったのだ。かなり分厚いカーテンをしていても西向きの教室には強烈な光が入ってくる。電気の明りなんかかき消して、全部をオレンジ色へと塗り替えてしまうのだ。

 ここ、放送室も、その例には漏れなかった。

 すると菊池さんは、ああ、と頷いて、俺と一緒に歩きながら教室を出て、ドアを閉めながら言った。

「凄いよね、この夕日。でもこれが大好きだって子もいるんだよ。物好きだと思うけど、あの子は本物よ。夕日の為にね、電車から夕日を見たいからって学校早く出るくらいだもん」

「へえ」

 そりゃ確かに物好きだよな。俺は相槌を打ちながら、廊下いっぱいに差し込む夕日に目を細めた。

 だってこの学校にいれば嫌ってほど夕日なんて見れるのだ。これを更に見るために下校時間を早めるなんて―――――――――

「横内君同じクラスだから知ってる女子だよ」

「ん?」

「ほら、佐伯七海っているでしょ?髪の毛がすごく長い女子」

 菊池さんのその言葉が耳に飛び込んできたとき、眩しくて細めていた両目を思わず見開いてしまった。

 ・・・・・え。ちょっと待った、今なんつった?


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