恋の禁断症状
わたしはノックも忘れて第3音楽室のドアを開けた
そこには涼しげにピアノを弾いているまさふみ先輩の姿があった
「ちゃんと来てくれたんだ」
「…はい」
ピアノの音が止まると同時に先輩の鍵盤を軽やかに叩く指も止まってしまった
きれいな細長い指をしている
まさにピアノを弾くためにある指だ
「…あの、何の曲なんですか?」
「あー、知らない?聴いたことはあるっしょ?」
「はい、でもピアノは疎くて」
先輩はいつか見たことのあるふわりとした笑顔で答えた
「鱒(ます)だよ?ピアノ五重奏曲イ長調第4楽章、シューベルト」