ひめごと。



 ふと、そんなことを思ってしまう。

 このままいなくなっても平気だろう。誰も自分を心配する人など居るはずがない。

 谷嶋だって、一時の虚しさだけで、奥さんを迎え入れればすぐに立ち直り、そうしてあたたかい家庭を築く。

 ただ自分が死を受け入れさえすれば……。

 どのみち、自分はあの廓の中にいれば死を待つばかりの人間だった。結果は同じで、ただ死ぬのが早いか遅くなったかだけのことだ。


 春菊は自分にそう言い聞かせ、川の水に足を沈めた。ひんやりとした身を凍らせるような冷たさが全身を襲う。

 だが、それもほんの一時だけだ。



(すぐに麻痺してしまうだろう。この……胸の痛みと一緒に……)


 春菊は死を覚悟して目を瞑(つむ)る。

 瞼の裏にあるのは愛おしい、優しい微笑みを浮かべた谷嶋の顔だ。

 歩を進め、ゆっくり身を沈めていく……。


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